(5)正義と友愛 結果的にそれぞれが異なる個人が集まったポリスでは人びとは何をもって共同したら良いのか。 アリストテレスは習性的徳の中の正義であるとした。 正義は、まず「全体的正義」が重要とする。すなわち、法律を守ることである。 一方で、法律は、それは公平の実現であるとする。こちらを部分的正義とした。 部分的正義には、名誉や努力の結果に応じて公平に扱われる配分的正義と、 総ての人が平等に扱われる調整的正義に別れる。 中学校を卒業すれば、高校には入れる資格を貰えるのは、調整的正義の例、 入試を受けて、一定の結果を出して入学が認められるのは、配分的正義の例と言える。 また、所得税のように累進課税のある税制は配分的正義(垂直的平等)であり、 消費税のように総ての人から8%の税が課されるのは調整的正義(水平的平等)である。 しかし、正義以上に、人びとを内面的に繋ぐ「友愛(Philia>philos)」が一層必要である。 友達に正義は必要ではないが、正義の人たちにはさらに友愛が必要である。 友愛があれば、しぜんと公平は実現される(ソクラテスの知行合一にあたる) 友愛とは、相手の善を相手のものとして願うことで有り、 それゆえ相手の善を自分自身のこととして願うことである。 友愛は、均質的、類似的対象の間で成立するものであるから、「第二の自己」ということになる。 (6)国制 では、そのような人びとが集まるポリスで、どのような政治のあり方が良いのか。 ポリスの目的は、人びとの幸福を求めて共同することであるから、 それに合う政体を選べば良い。それには次のような文類が可能である。 指導者数 よい形態 堕落した形態 1人 王政 僭主制(独裁) 数人 貴族制 寡頭政治 多数 共和制 衆愚制 どの形も選択しうるが、この中で共和制がもっとも目的に合うとする。 ●ヘレニズム(概略) さて、アリストテレスの時代はまだポリスが完全には消失していない時代であった。 しかし、アレクサンドロス大王の東方遠征によって、ギリシアだけの世界は消失し、 オリエント文化と融合するヘレニズム(ヘレス化(ヘレス=ギリシア))文化が成立する。 そこに、世界国家(コスモポリス Cosmos+Polis)が成立した。 この時代は、個人の魂の安心立命がテーマとなる。これには大きく2つのながれがあった。 エピクロス派=快楽主義 開祖:エピクロス=デモクレイトスの原子論:唯物論の影響を受ける。 人は原子からなり立っている。生きている間は死ぬことはない。 死んでしまえば、原子はバラバラになるから、最早、考えることも出来ない したがって、死ぬことを怖がることはない。 人の魂は苦を避け、快を求める傾向がある。 名誉や地位を求めず、魂が快を求めることに従えば良い。 精神的、肉体的苦痛を取り除き、魂の平静(アタラクシア)が、理想。 そのために、まわりの動きに影響されないように「隠れて生きよ」ということになる。 ストア派=禁欲主義(ストア=ストイック) 開祖:ゼノン 人生の目的:「自然と一致して生きる」 →「人間の自然はロゴス(理性)である」 自然に反した情念(パトス)を克服して、不動心(アパテイア)を実現することが大切。 自然=宇宙だから、人間は宇宙の下で同じ理性を与えられている存在と言うことになる。 そこから、総ての人は平等であるという思想が出てくる。 そのような宇宙に住んでいるコスモポリタンなのである。 一方で、自然全体は理性的な法が支配するポリスであって、そのような法の下で 平等に暮らす市民であると言うことにもなる。これは自然法思想の源流となる考えであった。
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