小諸といえば、「小諸なる古城のほとり/雲白く遊子悲しむ/」で始まる、島崎藤村の「千曲川旅情」の歌が有名だ。もちろん懐古園の中に詩碑が建てられていて、観光スポットになっている。多くの人がこの句碑の前に来ては写真をとっている。 さて、その千曲川であるが、懐古園の反対側にある。小諸の町は千曲川の河岸段丘にもなっていて、千曲川へ向かって断崖絶壁となっているのだ。その中で千曲川が見えるのは、富士見台と藤村の詩碑のそばにある水の手展望台である。 富士見台は空気が澄んだときに文字通り富士山が見えるそうだ。一方、水の手展望台は足下に東京電力のダムと蛇行した川の流れが広がり、とても見晴らしがよい。さすがに夏の水の多いときだけあって、川の水の流れにも勢いがあった。 …昭和61年正月にここを訪れたときは、寂寞とした景色が目の前に広がっていた。雪こそなかったものの、気温が低く、目の前のダムには一面氷が張っていたのだ。川も水が流れずに凍り付いていた。
.jpg) その中を布引観音まで歩いたのだ。断崖沿いに(今でも残っているそうだが)懐古園から川まで降りる細い道があった。途中には獣の足跡があるような道だった。10分くらいかけて降りたように思う。 布引観音は清水寺のように断崖絶壁に作られた堂宇をもつ寺である。ここの観音が牛に化けて、信心の薄いおばあさんを善光寺まで連れて行ったという「牛に引かれて善光寺参り」伝説のある寺だ。 布引観音へは昭和の初めに私鉄が通っていた。不況の中で電気代が払えず、送電を止められるなどの辛酸をなめ、遂に廃止された鉄道であるが、昭和61年頃はまだ線路の跡が残っていたのだ。それを見たいと思ったのだ。千曲川の中に倒れた橋脚があり、途中の交換駅のあとがあった。 いよいよついた布引観音は上るのが大変であった。その少し前に降った雪で階段が凍り付き、足をおく場所がほとんどなかったからだ。そんなことを思い出しながら千曲川を眺めていた。
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