silkroad033001.jpg
テレビ番組
視聴評論
全体目次へ
NHKスペシャル 新シルクロード
「激動の大地を行く」シリーズ
放映日 2007/9/30
執筆日 2007/9/30
第5集 「望郷の鉄路」 を視聴して
(本稿は、別途開設しているブログ “「新シルクロード」雑感” より転記したものです)
silkroad033005.jpg silkroad033002.jpg
前回の番組へ
次回の番組へ
本日(9月30日)のNHK「新シルクロード 激動の大地を行く」のシリーズ第5集は「望郷の鉄路」であった。
3ヶ月ぶりのシリーズ放映であるので楽しみにしていたが、肩すかしを喰らった感もあった。

懐かしかったのは、映画「アラビアのローレンス」と結びつけて番組が構成されていたことである。この映画は私が20歳代に見た映画だが、当時「ローレンス」が困難に果敢に立ち向かう様と、雄大な砂漠に魅せられたことを鮮鋭に思い出した。
但しこの時に感激したのは映画の前半の勇壮な部分が主で、後半の話がややこしくなる部分には余り興味は催さなかった。歴史的背景が理解出来なかったことも原因している。
その後、この映画はビデオも含めて何度も何度も鑑賞したので序々に後半も面白くなった経緯もある。
本日の放映でさらに歴史的背景がよく分かった。「アカバ」とか「ダマスカス」の地名が懐かしい。

本日のテーマは、イスラエルに追われてシリアのダマスカスに逃げてきたパレスチナ難民の取材が主である。しかし、取材の姿勢は前回の第4集「荒野に響く声 祖国へ」に較べると迫力が弱い。祖国を失った人々の悲しみと怒りの感情は、今回は前回ほどには視聴者には伝わらない。この違いは番組の制作を指揮するプロデューサーの識見によるものなのであろうか。
強制的に祖国を失わされた人々の感情は、前回の「コーカサス地方」と、今回の「パレスチナ難民」は同じ筈である。

番組では、この地方の紛争の原因を、「イギリスは、アラブ人に対しては中東にアラブ統一国家を建設すると約束し、ユダヤ人にも民族の故郷の建設を約束した。このアラブとユダヤ両方に対する裏切りが果てしなく続く紛争を生むことになる」と説明される。
そして番組の終わりは「20世紀初頭、ヒジャース鉄道が建設されて以来紛争の止むことのない中東のシルクロード、そこには故郷を失いさすらう悲しみの歴史が続いている‥(ボーと鳴る列車の汽笛音)‥」との情緒的なナレーションで締めくくられる。

パレスチナ問題はそんなに「単純な問題」でもなければ「情緒的な問題」でもない。
紛争の原因の一つは20世紀初頭のイギリスにあるかも知れない。しかし、遥かモーゼの時代から近年はヒトラーの時代の出来事を経て、さらに現在の大国(特にアメリカ)などの石油戦略が宗教対立に絡んで悲劇が悲劇を拡大していることが無視されている。
今回の番組の迫力の弱さはここにあると思う。

このような安易な番組構成手法は、前々回の「オアシスの道は険し」と同様な手法である。
前々回は、ソビエト連邦崩壊により経済の破綻したキリギスとウズベキスタンに、安価な中国製品が「古代シルクロードの道」を通って大量に流通し、それにより経済が活気を取り戻しつつあることが主要テーマであった。
しかしそのナレーションは、複雑に入り組んでいる問題をたった一つの情緒的な言葉で説明しようとする安易な姿勢があった。今回も同様に歴史的・社会的背景を単純化した安易な説明と思う。

この番組を見ながら、以前に民放より放映された番組を思い出した。2002年に徳光規郎がパレスチナを取材した「人間の戦場」シリーズである。このシリーズでは複雑に絡み合う問題を渾身の力を込めて取材したとの凄味があった。
視聴者の歴史観により評価は分かれるにしても、ドキュメンタリーとしての凄味は今でも忘れられない。

安易な取材になるのは公共放送であるNHKの宿命との意見もあろうが、それならば何故前回の「荒野に響く声 祖国へ」は見る人を感動させたのであろうか。繰り返すが、プロデューサーの識見の違いとしか考えられない。

そうは言っても今回も対象がシリアスなだけに、シリアスなインタビューが多かった。
特に印象に残ったインタビューは、ヒジャース鉄道の運転士が「子供達が教育を身につけて、イスラエルから平和的に故郷を取り戻すことを願っている‥‥戦争よりも賢い方法です」との主旨を喋ったこと。
それと戦乱を避けて、イラクのバクダットからシリアのダマスカスに逃れてきた人が「故郷を捨てて逃げてきたからまるで父親を亡くしたような気持ち‥‥シリアがどんなに良い国でもバクダットの代わりにはなりません」言っていたことである。了
silkroad033003.jpg
前回の
番組へ
silkroad033004.jpg
次回の
番組へ