テレビ番組
視聴評論
NHKスペシャル 旧シルクロード
放映日 2005/8/14
執筆日 2005/8/15
「天山を貫く・南疆鉄道」 を視聴して
(本稿は、別途開設しているブログ “「新シルクロード」雑感” より転記したものです)
8月も先月と同じく「新シルクロード」の放映はなく、25年前の「旧シルクロード」のみが放映された。昨夜の旧シルクロードは「南疆鉄道」であった。
この番組が放映されたのは1980年、当時の日本は未だ高度成長期の最中であり巨大土木工事は社会の発展と繁栄に貢献すると皆が信じて疑わない時代だった。
番組撮影時の1980年の南疆鉄道は建設の最中で、時代としては中国が成長期に突入する前後であり、土木技術者が理想に燃えて困難な鉄道を建設している雰囲気が画面からも熱気を持って伺えた。沿線の遊牧民もこの鉄道の別名「幸福鉄道」を文字通り歓迎・期待していたであろう。
私は一昨年の夏にクチャからトルファンまでの740キロをこの鉄道に乗車したが凄い路線である。最高地点の標高は3000m、最低地点はトルファンの標高−100mであった。
日中のクチャやトルファンは灼熱の大地、標高3000mの天山山脈走行地点では猛吹雪であった。その峻険な地形からも当時の難工事は十分に想像出来た。
再び当時の日本の状況を思い浮かべた。
個人的な経歴で恐縮だが、私は当時本四架橋の「大鳴門橋主塔」の建設に携わり技術的問題の対策に腐心していた。続いて時代は児島-坂出ルート建設の最盛期に突入し、世界最大とか世界初のタイトルがつく大土木工事が華々しく展開されていた。南疆鉄道と同じく日本の土木技術者も理想に燃えていた時代である。
当時、技術力のある大企業は競って自社の巨大な研究所と研究要員を動員してこの巨大な国家プロジェクトに関して構造、材料、施工法などの研究・開発・提案を行ってきた。
そして技術力と動員力と統率力のある企業が技術的に難度の高い工事を受注するシステムが必然的に生まれたのかも知れない。世界最大とか世界初の名を冠する難工事を単純に価格競争だけで発注していたらこのような工事は失敗に終わっていたと思う。
時代が下って、これら建設工事の発注システムの負の部分が増殖して、最近話題が多い「談合」とか「天下り」が世間から糾弾されるようになった。
再び南疆鉄道に移ろう。
私が南疆鉄道に乗車した時は一等寝台であり快適だった。ただしテレビ画面で見るような蒸気機関車でなくディーゼル機関車であり、しかも窓が開かない車体構造なので旅情の趣きとしては多少ストレスを感じた。窓を一杯開けて素晴らしい景色の写真を撮りたかった。
インターネット情報では、中国では青海省ゴルムドからチベット自治区ラサ間に標高5072mを超えて青蔵鉄道(全長1142キロ)を建設中と聞いた。あまりにも標高が高いので乗客が高山病にならないように飛行機のように車体を密閉構造にして予圧するらしい。今年末には試運転に入ると言う。
またアラルからホータンに至る425kmの新砂漠公路(第2砂漠公路)の建設が始まると言う。
中国でも巨大土木工事の発展は止まらない。
日本では現在、環境破壊、交通至便による地方の没個性化、新しい過疎地の出現、利用減による建設費償還の行き詰まり、あるいは談合問題などで大土木工事は批判されている。
中国の新疆ウイグル自治区は25年前と較べると土木・建築などのインフラの整備により経済的には凄まじく発展した。
しかしそれとともに古きシルクロードの時代のイメージは薄れ、新たに貧富の差が生じ、親密な人間関係・家族関係も変わりつつあると聞く。日本の辿ってきた道と重複するところが多い。
巨大土木工事により、交通時間は飛躍的に縮まり、自然災害は減少し、経済は発展し国力も増大することは間違いない。しかし巨大土木工事や性急な経済発展には必ず避けられない「負の部分」がある。しかもこれらは複雑に交差し、それを解決するための単純な回答はないことをこの番組を視聴して改めて感じた。了