テレビ番組
視聴評論
NHKスペシャル 新シルクロード
放映日 2005/5/9
執筆日 2005/5/9
第5集 「ラピスラズリの輝き」 を視聴して(その1)
(本稿は、別途開設しているブログ “「新シルクロード」雑感” より転記したものです)
5月9日にBshiにて新シルクロード第5集「天山南路 ラピスラズリの輝き」を視聴した。
今回は私も1昨年に訪れたことがあるクチャが舞台であり、クチャの数々の仏教遺跡が画面に映し出されていた。しかし「ラピスラズリ」については現地ガイドの説明もなく、全く知らなかった。ラピスラズリとは日本で言うところの高価な「瑠璃」のことで、これが壁画の背景などに一面に使われており、またクチャの人々もこの色を好んで住居の扉や窓に塗っていると言う。
ウズベキスタンのサマルカンドも青の都と言われるほど建造物に青を多用しており、モンゴルでもテングリ信仰の色は青であり崇拝されていた。空の澄みわたる青は人類共通の好みなのだろうか。
何度も書いたが、キジル石窟は盗掘やイスラムによる破壊・各国の探検隊による持ち帰り・紅衛兵による破壊および羊飼いの焚き火などのため、壁画は壁面のほんの一部に残っているだけであり、さらに長年の歳月により激しく劣化している。テレビ画面では壁画が大変綺麗に見えるがそれは特別に選びに選んで撮影されているからだと思う。壁画が傷んでいるのはベゼクリク千仏洞・クズルガハ千仏洞・アスターナ古墳群なども状況は同じであった。
従って普通に壁面を眺めれば視野の大部分は破壊された煉瓦または土だけである。しかも写真撮影禁止のため実際に観た壁画はその場で脳裏に焼き付けるしかなく、帰国後時間が経つにつれその印象は弱くなり、最後は印象そのものが消えてしまうのが普通と思う。
但しキジル石窟の壁画だけは今でも強烈に印象に残っている。何故か?
私は旅行先で土産物は殆ど購入しないが、キジル石窟だけは入り口の土産物屋で「豪華な写真集」を購入した。この写真集は現存している価値ある壁画の部分だけを撮影・編集してあるのでとても綺麗であり、探検隊により各国に持ち帰られた壁画の写真も併せて掲載されている。
帰国後何回もその写真集を開いている中に、現場で観た傷だらけの壁面の印象が徐々に写真集の素晴らしい壁画の印象に頭の中で入れ替わったようである。
「人間の記憶は美しいところを強調して残す」と聞いたことがあるが、正にその通りのことが起こったと思う。写真集のお陰で「美しい疑似の記憶」が後から形成された。
もし再びあのキジル石窟を訪ねたらその壁面の無惨さに失望することは明らかと思うが、私はこの疑似の記憶に満足している。疑似の記憶の中では壁面一面に極彩色の天女と動物が周りを回っており、色々な特徴ある民族の顔も描かれている。豪華な写真集の思わぬ効用であろう。本日のテレビ画面もさらにこの疑似の記憶を強化した。
本日の番組では、日本に伝わった仏教の基本ともなった鳩摩羅什僧の物語がメインであったが説明に重複が多く、またテーマ音楽の「モヒーニー」があまりにも多く繰り返されるので多少食傷気味であったが、クチャ市内のバザールや人々の表情および遺跡近辺の異様なまでの特徴ある地形が何度も映し出され懐かしく眺めた。了