テレビ番組
視聴評論
NHKスペシャル 新シルクロード
放映日 2005/3/15
執筆日 2005/3/15
第3集 「草原の道 風の民」 を視聴して(その1)
(本稿は、別途開設しているブログ “「新シルクロード」雑感” より転記したものです)
新シルクロード第3集「草原の道 風の民」を本日のBshiにて視聴した。
「かつて様々な騎馬民族がユーラシア大陸の草原を馬で自由に駆け巡り、強大な国を築いては滅び、またシルクロード交易で活躍したが、彼らは文字を持たなかった故に記録が少なく歴史的な解明が進んでいない面も多い」とのナレーションが何度もあった。従って番組構成のトーンとしては、騎馬民族の遠い記憶を訪ねて取材を重ね、それに雄大な風景と遊牧民の馬や羊との関わりの美しい画面を重ね合わせ、全体的に感傷的な画面で構成されていると感じた。
風景は雄大で美しく、遊牧民の古老は彫りの深い品格のある顔立ちで頑固な感じである。シルクロードに憧れるにはうってつけの画面が続いている。
昨年モンゴルのウランバートルから成田への飛行機から見た景色を思い出した。ウランバートルから中国の国境までの眼下は雄大な丘陵と草原が延々と続いていた。しかし中国に入ると地形そのものは同じように雄大な丘陵地帯であるが、至る所が区画割りされ農耕化が進んでいる。農耕に適していない草原すらも遮二無二農地化し、居住地帯を拡大する農耕民族の繁殖力の凄さが機上から窺えた感がした。
騎馬民族は、自然に人為を加えず自然とバランスさせるように生活形態を営んでおり、必然的に人口が少なくなったのではないか。対して、農耕民族は自然に人為(農地化および機械化)を加え食料を増やすことにより、爆発的に人口を増やして来たのではないか。
そのためか現在の中国では圧倒的に農耕民族(漢族)が政治的にも経済的にも優位になっている。テレビでも紹介されていたが、今やウルムチは中国政府の西部大開発の方針により摩天楼の立ち並ぶ大都会となり、その8割が漢族である。景勝地「天池」の美しい画面が紹介されたが、私が訪れた時は漢族の観光客で溢れかえっていた。
番組ではモンゴル族の祭で少年競馬の画面が放映されていたが、バックでは中国の国歌が流れていた。またバインブルク高原の突厥の子孫の村で歴史を紹介する影絵劇も漢族によるものとの感があったし、音楽も漢族のものである。シボ族の祭での説明のスピーカーは当然かも知れないが中国語であった。
このように中国にとってすら、シルクロードはもはや過去のものであり、少数民族の文化が大事にされていると言っても、それは漢族の包囲の中で残された文化となっているのではないだろうか。観光化しているものも多い。
勿論、画面で紹介されている雄大過酷な自然の中で生活する少数民族は未だ多く、その風俗は農耕生活や都市生活および利便性とは異次元の世界であり、遠い憧れを禁じえない。
しかし、これらの懐かしい風俗が急速に近代化・漢民族化するのはもはや避けられないとの感じを、一昨年の新疆ウイグル自治区の旅行中に抱いた。頑固で風格ある顔つきが、近代的で端正な顔つきに変わってきている感がする。
この番組を私は感傷的に鑑賞したが、それは遠い雄大な文明に思いを馳せる感傷だけでなく、強いものの中に弱いものが巻き込まれざるを得ないことへの感傷もあった。了