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井戸による地下水の汲み上げ
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写真−148〜149
井戸
民家の近辺にある井戸 
井戸
田園の中にあるポンプにより揚水する井戸
2010_2_26
(写真と下記の文章は直接の関係はありません) 
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2010_2_23
砒素問題‥‥
今回の旅行は観光旅行であるため、砒素問題については全く説明がなかったが、ネット情報などではバングラデシュのひとつの社会問題としていろいろ取り上げられているので、下記に情報を抜粋整理してみた。


生活を豊かにするための井戸から砒素が出た‥‥

バングラデシュでは、雨季と乾季が明確に分かれているため、大河を有するにもかかわらず乾期には農耕地に灌水できず、農作物の収穫が期待できなかった。そのため、ユニセフや各国の援助で、人口問題と経済問題を同時に解決する方策として、地下水汲み上げによる灌漑・飲用の政策を、ここ40年来推進してきた。そして多数の井戸が掘られ、生活環境は劇的に改善された。

しかし、井戸水使用者の皮膚の黒化や、肝臓の肥大、がん患者の増加などの症状が認識されるようになり、それが井戸水中に含まれる砒素(arsenic)が原因であることが分ってきた。地下水の多くが、砒素に汚染されていることが分ったのは、90年代も半ばになってからだが、現在ではバングラデシュ全64地方区のうち実に59区で砒素汚染が判明し、2500万人〜7500万人の健康が脅かされているという。すなわち、丘陵地帯を除く国土の大半で砒素に汚染された井戸が見つかり、世界最大規模の悲惨な砒素汚染に直面している。

(注: 多くの文献に目を通したが、砒素による被害状況の数値は文献により全く異なっている。理由は調査時期、調査対象地域、汚染基準の判断などによると思われる。上記は一例としての数値である)


砒素の犯人はヒマラヤ山脈‥‥

科学者は15年以上前から、天然に高濃度の砒素を含むヒマラヤ山脈の広大な汚染源を特定し、それが下流の河川流域を汚染していると説明してきた。そして、ヒマラヤ山脈を源とするガンジス河やジャムナ河やメコン河によって運ばれた堆積物の砒素が水に溶けて帯水層(地下水層)に移行し、帯水層の水が井戸により汲み上げられ、灌漑や飲料水として使われていると警告してきた。
調査が進むにつれ、砒素は地下水にとどまらず、それを使用した稲や野菜などの農作物や家畜にも含まれている事が判明し、影響はますます広範囲、かつ深刻な問題になっている。貧困を救うために、ユニセフや各国の援助により、善意で作られた井戸であるが、結果は複雑なことになってしまった。


生きるためには砒素を含む水を飲むしかない‥‥

人口が極端に多くて貧しい国では、生きるためには水を確保するのが先決で、国土全地域の砒素対策まで手が回らないのが実情であろう。砒素により発病するのは数年後だが、水を飲まないと直ちに死んでしまう。有効な対策をとるにしても、余りにも汚染範囲が広いので、浄化装置の建設や他場所から代替水を求める資金や技術もない。しかも工場廃水などの人為汚染ではなく、自然界による広範囲の汚染であるため、汚染は底なしの様相である。
 
ユニセフは、こうした状況に対応すべく、バングラデシュ政府公衆衛生工学局と共に、簡単な仕組みで容易に使用できる溜池の砂濾過器を開発し、汚染の深刻な地帯に優先して設置を行っている。雨水や川の水を溜めた池の水は、衛生的には兎も角、砒素は含まないので、これを濾過して飲用とするためである。しかし、池の水を全量濾過しても乾季には水が不足し、砒素を含む井戸水を飲むしか方法がない。
 
前述のグラミン銀行の16の決意 の中に、「私たちは井戸の水を飲む」の意の一項目がある。これは、溜池の水を止めて清潔な井戸の水を飲むことを指しているのであろうが、何ともやりきれない。
日本からは、JICAや宮崎大学、NPO法人アジア砒素ネットワーク他が調査・対策に協力している。政府も無償資金協力を行っている。

2年前にガルワール・ヒマラヤの「花の谷」を訪れた時、道中でヒンドゥー教徒がガンジス河に沐浴し、ガンジス河の神聖な水を口に含む様子を何度も見た。ガンジス河の水そのものが高濃度の砒素に汚染されているのではない。流れる水や雨水は、砒素に対しては安全である。下流のデルタ地帯の帯水層(地下水層)の砒素汚染は、数万年、数十万年にわたって堆積されたものである。