久しぶりの休日、暇だったので、ちょこっと出かけることにしました。
 日本橋へ中古PCでも見に行くつもりだったのですが、その途中、話題となっている
天王寺公園にも足を向けることにしました。目的は青空カラオケ騒動の現場です。
 市側の撤去命令とそれに抵抗する店側の現場を見てみようと思ったのでした。

 大阪について詳しくない人のために説明すると、天王寺公園とは天王寺駅から新今宮駅、
そして通天閣の間に広がる巨大な公園で、その中には動物園や美術館も存在します。
 ただし、動物園などはもちろんですが、公園の敷地も有料でして、大人で150円です。
 その代わり、天王寺から通天閣周辺まで無料で通り抜けの出来る歩行者用通路があり、
その通路に以前から屋台などの店舗が並んでいました。もちろん合法ではありません。
 11月になってからその店舗を巡って報道が交わされるようになりました。
 大阪市側が店舗の撤去を要求して、店側がそれを拒否したからです。
 さて、実情はどうなのか、私はろくに事前調査もしないまま出発しました。

 私は野次馬気分でデジカメ片手に原付で天王寺公園に到着しました。
 空いている場所に原付を駐輪すると、なんと、そこにうんこがあるではありませんか!!
 到着早々、「運の尽き」とは笑えない話です。すでにタイヤにこびりついています。
 しっかりうんこを踏んでしまった原付を別の場所に移動させ、私はまず場所の確認をしました。
 と、いうのも、問題の青空カラオケがどこにあるのかよく知らなかったからです。
 しかし、改めて探す必要はありませんでした。天王寺公園は大半が有料の敷地なので、
歩いていけばいやでも目に付く場所にあったからです。
天王寺駅前広場から美術館前ぐらいの通路に、下のような店舗がちらほらとありました。
 ただし、ずらっと店が並んでいるわけではありません。
 私が来たときに営業していた店は10店舗ぐらいだったと思います。
 残りは撤去されたか、下の写真のように店舗を残して去ってしまったようです。
 中には閉店日もあったかも知れませんが、私には区別が付きませんでした。
 うろうろしていると、名前の通り、カラオケの歌声が聞こえてきます。かなりの音量でしょう。
 曲目は演歌や一昔前の歌謡曲が中心。店内で歌うケースがほとんどですが、
中にはマイクを握って路上で熱唱する姿もありました。それも店主のマラカスサービス付きです。
 総じて歌のレベルは高いと思われます。というより、音痴の人はマイクすら握れないでしょう。
 
 暇なときは店の人がマイクを握ったりもします。やはり歌はうまいです。
 私はそのうちの一軒にちょっと質問したら、怪訝そうな表情で「どなた?」と訊ねられました。
 ネットで情報を公開している者です、と答えたら、理解してくれたのかしてくれなかったのか、
不審人物を見る目は変わらずに、それでも質問には答えてくれました。
 それによると、10月の頭にいきなり、大阪市から店舗の除去(この点を強調)を要求され、
すぐには出ていけないから、準備が出来るまで時間をくれるように頼み込んだそうです。
 そして移転の準備期間を求めて、署名を集めたり、請願書を出したりしたそうです。
 ただ、いつまでも居座るつもりはないらしく、非合法で法に触れていることも理解しており、
出ていかなければならないのは分かっているけど、ただ、時間だけを欲しい、ということでした。
 やがて、その人から、組合の代表らしい山本一夫氏を紹介されました。
 高齢のようですが、精力的で、老人扱いしたら怒られそうな男性です。
 紹介されたとき、山本氏は携帯電話で誰かと延々と話し合いをしていましたので、
それを待つ間、その店でたこ焼きを注文したりもしました。きちんとおしぼり、おひやも出て、
奥の厨房からは、威勢のいいおじさんにマヨネーズをつけるかどうか訊かれました。
 その間、お客さんらしき人などからも話を聞いたのですが、どの人も退去は覚悟していて、
それまでの準備期間が欲しいという点で一致していました。
 何人かの人に訊ねたのですが、いつまでも居座り続ける、と言う人は皆無でした。
 店舗側をサポートしている団体について訊ねましたが、詳しい名称を知っている人はおらず、
どういう性格の団体かも把握している様子はありませんでした。
 ちなみに小鉢皿に盛ったたこ焼きはそこそこおいしかったです。

 なお、上下のスーツとオールバックでピシリと決めた中年の男性もいましたが、
どうもその筋の方のような気がして、あまり声をかけなかったことを付け加えておきます(w

 で、電話が終わった山本氏に呼ばれ、私は店の中で山本氏にインタビューしました。
 インタビューなんて慣れていない私に比べ、氏はすっかりインタビュー慣れしていました。
 自分の名前がネットに載っているのか? など、嬉しそうに逆質問されました。
 
 この騒動の発端は10月1日、大阪市からの一方的通告から始まったようです。
 それもきちんと文書を手渡す形式ではなく、朝、店舗の壁に貼り紙があっただけらしいです。
 10月31日までにすべての店舗を「除去」するように、との命令だったそうですが、
事前の警告もなく、しかも貼り紙一枚と言うことに、反感が募ったみたいです。
 11月28日に再び要請があり、そこから騒ぎが大々的に報道されるようになったとか。
 ただ、行政との対応はほとんど弁護士に任せているようです。代表の山本氏も、
店側についている団体について、詳しいことはおろか、名前も覚えていないそうです。
 12月1日の戒告書手渡しについては、店の者以外が騒いだとか。
 ちなみに山本氏も移転の準備期間を求めているのであって、居座り続けるつもりはないらしく、
役所仕事だからおそらく年度末ぐらいまで時間は稼げると考えているようです。
 「せめてここで正月を迎えたい」というのが山本氏の気持ちだそうです。
 そのために「膝を交えて」話し合いたいのに、役所はその場を設けてくれない。
 だから弁護士に頼んだのも、居住権の主張ではなく、期間の延長、だそうです。
 私が「カラオケが騒音公害となっているのではないか?」と質問すると、
それはごく一部の人で、直接苦情を言ってきた人はいなかったそうです。それどころか、
役所は都合のいいときに騒音問題を出してくるが、それでなくても街は騒音だらけで、
大阪市側は弱い者からまず権力を濫用する、と、主張されました。

 あと、マスコミに関する不満も多く聞かされました。
 まず、行政側が店舗側に「撤去せよ」とは言っていないと報道されましたが、
これは嘘で、マスコミもそのことを知っているのに書かないこと。
 店舗側が市役所職員を取り囲んで騒いだ、というのも、事実は全くの逆で、
店舗側は少人数なのに、市役所職員は40人ほどで押し寄せ、こちらが取り囲まれたこと。
 行政側が50回以上通告した、とか言う報道も事実無根であること。
 青空カラオケが平成9年から広がったというのも誤解を与える報道の仕方で、
実際に私が訪れた店は20年以上やっているそうです。
 実際、私が正面切ってインタビューする前に、山本氏は長々と電話で話していましたが、
こっそり盗み聞きしたところ、報道に関する不満をぶちまけているようでもありました。
 テレビがどうのこうの、取材がどうのこうの、内容がどうのこうので、詳細は知り得ませんが、
いろいろと「伝わっていない」ような事を聞き取りました。
 最後に山本氏に一言言いたいことを求めると、氏は少し芝居かかったように、
「人権無視。これに尽きる」と腕を組みました。
 私は山本氏に礼を言い、そしてそれ以外の人にも頭を下げて、その場を立ち去りました。

 本来なら行政側である大阪市にも質問するべきなのですが、日本橋にも行きたかったし、
買いたい本もあったのでやめることにしました。そもそも興味もなかったし。

 そして私はうんこのついたタイヤであちらこちら走り回り、きれいに取れた頃、帰路につきました。


 以上、色々聞いてみたのですが、これは決して裏を取った内容ではなく、
あくまで当事者の意見をそのまま再現しているに過ぎません。
 ですから、内容の真偽についてはそれぞれの判断にお任せしたいと思います。
 以下、私なりの見解をまとめたいと思います。
 
 あれこれ話を聞いてみると、結論的には「時間が欲しい」と言うところに落ち着くと思います。
 ただ、おそらくは弁護士を通じていろんな団体が顔を出しているらしく、その辺りから、
話がこじれて過剰な報道を招いた側面があるのでは、と私は推測します。
 その一方、店舗側が行政側に期待する「温情」は店舗側の「甘え」と受け止められても、
これは仕方ないでしょうし、実際、私もそう言う風に感じました。
 その甘えの気持ちはどこまで許されるのか、興味深くも少し悲しいポイントです。
 長年のグレイゾーンをはっきりさせるとき、こうなってしまうのは仕方ないでしょうね。
 いずれにせよ、来年の今頃は青空カラオケは存在していないでしょう。
 それが良いことなのか悪いことなのか、私には分かりませんし興味もありません。
 ただ、マスコミに捏造されない事実だけを見たかったわけですから。
 それと、今回答えてもらった人たちの画像は出さないことにします。
 
TOP
追記
私が青空カラオケを訪れてから時間は経ち、
屋台店主側が撤退するニュースが流れました。
もちろん撤去は時間の問題だったわけですから、
時期がいつになるかだけの話だったわけですが、
私は再び天王寺公園に足を向けることにしました。

すると公園には撤去工事予告の看板が立ち、
ほとんどの屋台が店仕舞いの準備をしていました。
かろうじて営業していたのは二軒だけ。
店を畳む様子をテレビクルーが撮影していました。

しかし、まだ完全に諦めていない人たちもいて、
なんと天王寺公園前の広場に設備を広げ、
即席カラオケ大会を催している集団が二組もいました。
片方には人が集まっていませんでしたが、
もう片方にはそれなりに黒山の人だかりが出来、
以前と同じ1回200円にもかかわらず、
歌声が途切れることはありませんでした。
そのしぶとさに、私は少し感服しました。
集まっている会場                     まばらな会場
交番の警察官に話を聞いてみたところ、12日ぐらいから行われているとのこと。
法的な面を訊ねてみると、公園の管理だし、まぁ、しゃあないと苦笑いされました。
警察官としてもあまり深く関わりたくない、との気持ちがひしひしと伝わってきました。
天王寺公園という場所柄、いちいち関わっていたら確かに体が持たないでしょう(w

何とも言えない哀愁を帯びて遠くから聞こえてくる演歌の歌声が響く中、
乾いた冬の風に吹かれながら黙々と屋台を解体する人たちの姿は、
絶望や怒りが漂うと言うよりも、ただ単に疲れ切って感情さえも枯渇してしまい、
底知れない寂寥の一コマとなって、冷たい通り路に残っていました。サンタ帽付きですが。
この日、せっかく訪れた私でしたが、
屋台の人から直接話を聞くことは、
さすがに抵抗あって出来ませんでした。
何を言っても怒られそうですし、
何を訊ねても笑われそうだからです。
実際、まだ営業している屋台からは、
あっけらかんとした多くの笑い声が、
外の通り道にまで聞こえていました。
そこには私の立ち入る隙はどこにもなく、
私は肩をすくめて立ち去るだけでした。

12月15日の夕方5時をもって、
青空カラオケは姿を消すでしょう。

それでは。