メンガタメリークワガタの特徴について
メンガタメリークワガタはアフリカ中部に分布するクワガタであるが、その生態はまだ良く判っていない部分が多い。例えば、これだけ生体が入ってきているにもかかわらず、その生息地での野生の状態がどういう様子かという情報はほとんど無いに等しい。そうした中でこれまで5番会議室に報告されている内容をいくつかまとめてみた。まだまだ途中経過に過ぎないが、面白いクワガタである事は判ってもらえるかと思う。
@産卵について
メンガタメリーはアフリカ産ということでなにやら特殊なイメージを持っていたのだが、意外と身近なクワガタと似た所がある。その一つが産卵である。
上の写真の左側が産卵痕、右側がその中にあった卵の様子である。一見して、日本のコクワガタの産卵の様子に酷似している。無論、これだけでコクワガタと近似種であるなどと言うつもりないが、その振る舞いが似ているという事は確かである。これが、その系統によるものなのか、環境によるものなのかは、今後の研究により明らかにされるだろう。
A幼虫について
幼虫については、孵化したての初令幼虫はコクワガタなどとほぼ同じように見える。ところが、大きくなるにつれ腹部が発達しだし、尾部にタコが出来てくる。このあたり、ツヤクワガタあるいはネブトクワガタの特徴に似ている。さらに、幼虫は坑道を掘る性質があり、このあたりもツヤクワガタとよく似ている。さらに見かけはミヤマクワガタにも似ているという意見もあり、幼虫だけを見ていると、マルバネ・ツヤクワガタのラインから派生したもののように見える。いつかDNA鑑定が行われるはずであり、その結果がどう出るか今から楽しみである。
孵化直後の初令幼虫。これだけを見るとコクワガタの幼虫と区別が付かないが、成長するにつれて腹部が発達し、ネブトあるいはツヤクワガタに似た姿になってくる。
B土繭について
メンガタメリーは、蛹化の際にもネブトやツヤクワガタと共通した特徴を持つ。すなわち、通常の蛹室ではなく、土繭を作るのである。土繭というのは、非常に頑丈に出来た土製の繭で、ネブトクワガタなどでは楕円形の繭の形のまま堀り出す事が出来る。蛹室と大きく異なるのは、その内部空間が非常に狭い事で、蛹室が羽化後大顎を伸ばした体長が収まるスペースを持つのに対して、土繭は大顎を畳んだ蛹が収まる大きさしか持たない。その中で蛹は器用に回転し、無事に成虫になるのだからなんとも不思議な気がする。成虫は十分に身体が固まるまでは「く」の字型に身体を曲げて繭の中でじっとしているようだ。どうやら、繭を丈夫に作るために極力空間を少なくする必要があるかららしい。それだけ幼虫の周囲に強力な外敵がいるという事なのだろうか。
幼虫においてネブトやツヤクワガタと大きく異なるのは、菌糸飼育が有効である点である。ネブトやツヤクワガタは菌糸では成長しないがメンガタメリーでは一定の効果が出ている。(マット飼育15g、菌糸飼育18g等)これは、食性の違いを意味し、根食い、泥喰いとされるネブトやツヤクワガタに対してメンガタは比較的新鮮な材を好む種類と言う事になる。見かけとは異なるこの事実がどういう意味を持つのか興味深い。
左がメンガタメリークワガタ、右がアルケスツヤクワガタの土繭の様子である。どちらも内部のスペースが極端に狭く、酷似した形態を持つ事が判る。違うのはツヤクワガタの土繭の方がより頑丈である事で、もしかするとツヤクワガタは外敵から身を守るという意味があるのに対して、メンガタは乾燥を防ぐというような別の目的があるのかも知れない。このあたり、野生の環境を知りたいところである。
C蛹について
ここまでメンガタメリーが他のクワガタと共通した部分を取り上げてきたが、メンガタ独自の特徴と思われる部分を紹介する。蛹の尾部がそれで、5番会議室の議長である史嶋桂氏は「尾端のイルカの尾状の突起が左右に開かず背中側で合わさって飛行機の垂直尾翼の様な向きで付いている」と表現されている。これが何を意味するのかは不明だが、メンガタの位置づけに関わることになるのかも知れない。
メンガタメリークワガタの蛹の先の部分の写真。左が横から、右がほぼ上から捉えた写真である。史嶋桂氏が表現した「垂直尾翼」のような特徴が判ると思う。これが他のクワガタとどう違うか比較するため、いくつかの種類の♂の尾部を以下に掲載する。ただし史嶋氏にしても私にしても1200種類と言われるすべての種類と比較した訳ではなく、これが直ちにメンガタメリー独自の特徴と断定するものではない事を明記しておく。
ミヤマクワガタ
ローゼンベルギーオウゴンオニクワガタ
スペキオススシカクワガタ
スマトラオオヒラタクワガタ
D体色について
メンガタメリーの特徴の一つである体色についても興味深い話が出ている。今のところ何の根拠もない雑談程度のものだが、推理としては面白いと思うので紹介しておく。
メンガタメリーの体色は薄いベージュ色であり、数多いクワガタの中でもあまり類を見ない。私は最初この色から砂漠を連想し乾燥地帯に居るのではないかと思っていたのだが、様々な情報を集めるとどうやら熱帯雨林に分布しているらしい。となると、この体色の持つ意味がわからなくなる。ジャングルの中では非常に目立ってしまう不利な色に思えるからである。この疑問に対して史嶋氏が面白い仮説を提案されている。すなわち、この種類は樹液ではなく花の蜜に集まり、その花の色に似た体色になっているのではないかという説だ。同じ甲虫にハナムグリが居る事から、あながち荒唐無稽と捨て去る事は出来ないと思われる。もしかすると、ジャングルに咲く蘭のような花にこのクワガタは集まって来るのだろうか。
現地の情報が入ってくればすぐにでも覆ってしまうようなただの考察ではあるが、こうした推理をしてみるのも時には面白いものである。これも5番会議室ならではの楽しみの一つだ。
E羽化の様子
Bに掲げた写真の個体が羽化したので、その様子を紹介する。
左が羽化直後の土繭の中の様子。蛹の時とほぼ同じ状態で頭部を折り畳んでいる事が判る。このこと自体は他のクワガタでも見られる事であり、取り立てて珍しくはない。違うのは、土繭の狭いスペースを最大限活用して後翅を伸ばしている(と思われる)事である。身体全体を土繭のカーブに合わせて曲げる事で必要最低限のスペースを確保しているようだ。これは土繭を作るときにぎりぎりの大きさに合わせている事を意味し、どうやってその大きさを知るのか興味深い所である。
右が羽化後2日経ってからの様子である。まだ腹部は収縮しておらず、脚も完全には固まっていない。この時点で、大顎の先から前翅の先までを計測したところ56oであった。少し前ならギネスになっていたと思われるほどの特大サイズである。身体が完全に固まる頃にはもう少し縮んでいるかも知れないが、メンガタメリーに菌糸が有効である事は間違いないようである。頭部の様子などのディテールに関しては、腹部が収まった頃に再度撮影して掲載する事とする。