趙鏞殷

「東遊略抄について」(要約)
-趙鏞殷(素昴)の日本留学日記-

2010年2月2日、ソウル市立歴史博物で行われた「三均学会」で、「東遊略抄」について講演した。そのために書いた論文である。
『三均主義研究論集』第31輯(三均学会・ソウル)2010年　42ページ以下に掲載された。同時に韓訳文も掲載されている。

内容は、「東遊略抄」を翻訳したきっかけ、東遊略抄の意義、テキストの問題、府立第一中学校時代、明治大学時代、宇宙観からなっている。

東遊略抄は趙鏞殷が日本に留学していたときの日記であるが、留学期間全期間を通じて書かれている。この時期の留学生が残したものとして唯一無二である。没収などの可能性もあり、日記が残ったことは奇跡に近い。これによって趙鏞殷のみならず、当時の留学生の状況まで分かる。

これまでも日記は注目されていたが、翻訳はなかなか出来なかった。テキストが難解なこともあるが、一方で現在、活字版しか手に入らず、活字版作成段階で誤ったと思われるところが多いためでもある。

趙鏞殷は国を救うためには従来の儒学ではダメで、近代を学ぶ必要があると考えて皇室特派留学生に応募した。来日当時から、近代へ注目するとともに、一方でそれがかかえる社会問題に関心を持っていた。最初の派遣先は東京府立第一中学校であった。一中では実学教育のための基礎教育を受けた。当時の日本は、実学が国作りの基礎と考えたため、韓国にも当てはめようとした。一方で留学生は法律の学習こそ国作りの基礎と考えていた。その違いが1905年12月からの同盟休校につながった。趙鏞殷は同盟休校後復学して、1907年に卒業するが、一中の学習自体は面白くなかったようだ。しかし、ここで学んだことで、近代の「分割された時間」の観念に触れることが出来た。

その後趙鏞殷は第1高等学校に進学を試みるが、失敗に終わった。その後他の留学生より遅れて明治大学に進学する。しかし、法律の勉強はそれほど熱心でなかった。当時の法律がドイツ法全盛期で、それまでの韓国の伝統法との考え方にあまりにも差があったことがその原因の一つと考えられる。その後も法律学の影響は直接は見られない。しかし、論理操作のしかたなど、法律学を学んだことから来る影響は考えられる。

趙鏞殷は、1910年前後から哲学面に傾倒するようになる。韓国併合によって、独立運動のエネルギーが哲学的思考に向かったのだろう。趙鏞殷は宇宙を大霊からつらなる一続きのもので、一切が関連性を持つと考え、自己をイエス、孔子、孟子、ソクラテス、仏陀につらなる同格のものと考える。その一方で上帝から祖国を救うように命ぜられたと感じる。

そのころ日本では大正生命主義に繋がる思想の萌芽が現れていた。趙鏞殷の思想には大正生命主義の影響が強いようだ。生命を追究するために、神秘主義的傾向を帯びるとこともある。一方で自己の生を追究することから、それが内面に向けば求道的になるし、外面に向けば社会救済に向かうこととなる。

このような影響で形成された思想が、のちに独立運動、三均主義につながっていくと考えられる。

※韓国語要約はプレゼンテーション用に作製されたものである。当日は設備の関係で使用できなかった。

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