148.「自分に呆れています!」
 今回はいささか行儀の悪い話しで恐縮です。

 
 人後に落ちない"せっかち"だと自他共に認める私ですが、遂にやらかしてしまいました。


 数日前に、トイレを使うのとお昼ご飯を食べるのとの両方の目的で、通りすがりのファミレスに入ったんですが、注文も後回しにして男子トイレに駆け込んだ私は、トイレにたどりく前から既にズボンの前チャックに手をかけ、トイレのドアを開ける頃にはチャックを下ろし終わり、ドアを開けるや否や、中味である私の分身をつまみ出してしまいました。

 
 小便器まではまだ数メートルもあります。
運が悪いことに、丁度手を洗い終わって振り向いた男の人に分身をバッチリと見られてしまいました。

 
 これに近いことは今までに何度もありましたが、もろに見られてしまったのは、今回が初めてです。
しかもので、なおさら気まずい雰囲気です。
 男の人は一瞬驚いた顔をしましたが、直ぐに気を取り直して慌てて出て行きました。
何も彼が慌てることはないのに。 

 
 こういう時は、見られた人よりも見た人のほうがかえって恥ずかし思いをするものです。
誰にでも経験があるでしょうが、私も喫茶店の男女共同のトイレで、うっかりノックもしないで個室トイレの戸を開けて、女の人がしゃがんでいる姿をまともに見てしまった
ことが過去に2度あります。
 
 
 不思議なことに2度とも若い女の人でした。
断っておきますけど、わざとじゃありません。

 
 その時私は恥ずかしくて居たたまれなくなり、用を足すのをやめて自分の席へ戻り、ひたすらに週刊誌を読みふけるフリをしていました。

 
 その話しを会社の20代の女子社員にしましたら、「わたしなんかそんなことはしょっちゅうで、別に恥ずかしくもなんともないよ」とあっさりと言われてしまったことを憶えています。
 

 というわけで私は用を足して、トイレから自分のテーブルへ戻ったんですが、トイレから出る時はもの凄く恥ずかしく、そして緊張しました。
 

 というのは、さっき慌てて出て行った男の人にもし連れの人がいたとしたら、トイレ内でのあの恥ずかしい出来事を連れの仲間たちに話して、おっちょこちょいの私がトイレから出てくるのをひと目見ようと皆で待ち構えているに違いないからです。
 それが予測できたので、私は心の中のおどおどした気持ちとは裏腹に、殊更に胸を張って堂々と、自分のテーブルに戻りました。

 
 そして昨日のことです。
年が明けてから休みなしで働いているものですから、代休をとり家でのんびりしていました。
 不景気知らずのありがたい会社です。 

 
 妻が昼食をつくるのが面倒くさそうな顔をしていたので、近くのコンビニで幕の内弁当を買ってきてそれで食事を済まし、食べ終わった発泡スチロールの容器や、もともと家に置いてあったコーヒー缶などをレジ袋にまとめて、私がゴミ収積所に捨てに行きました。 

 
 運悪く、見覚えのある60過ぎのおばさんがそこで、燃えるゴミと燃えないゴミの分別をしていました。
私は分別のことなど念頭にも入れず、私は燃えるゴミの方に、手に持っていたレジ袋を投げ捨てました。

 
 その時レジ袋の中で、ガチャンという金属性の音がしました。


 おばさんはその瞬間私の方を振り返ると「今何を捨てたの? なにか燃えないもののようだったけど・・・・」と年に似合って意地悪なもの言いをしました。 

 
 「あなたはどこの人?」と訊くので、「そこです」と数軒先の我があばら家を指差しますと、「なに、あんたはKさんのご主人? 奥さんとは親しいから私から奥さんに、よ〜く注意しとくからね」と言われてしまいました。
 そのおばさんは、そのゴミ収積所の真ん前の家の人で、その日は分別の当番だったそうです。


 それにしても、目と鼻の先に10年も住んでいながら、お互いに面識がなかったとは……。
 

 私は他人の名前や顔を覚えないないことでは人後に落ちない自信があるんですが、今の家に住むようになって10年の間に、両隣りのご主人の顔を覚えるのが精一杯で、2軒隣りのご主人の顔をやっと覚えたのが一昨年です。

 
 どうやらどこかですれ違った際にそのご主人から挨拶されたにもかかわらず、私が挨拶を返さなかったことがあったらしく、ある日私の家の前で、帰宅してきたそのご主人と出会った時に、私が挨拶をしたらプイとそっぽを向かれてしまい、ちょっと憤慨した想い出があります。 

 
 その後妻にひと芝居打ってもらい、「うちの主人はどうしてああも人様の顔を覚えないのかしらね」と、それとなくその人の奥さんにボヤキを入れたのがご主人に通じたらしく、誤解も解けて、その後は親しく挨拶を交わす仲となりました。 

 
 しかしもっと呆れたのは、隣の家のことですが、ある日高校生の女の子がしきりにその家に出入りしていたので、「隣にはあんな大きな娘もいたんだね、幼稚園に通ってる子だけかと思ってたよ」と妻に言いましましたら、「なにバカなこと言ってるのよ。その娘がもう高校生なんだよ」と一喝されてしまいました。 


 私が人の名前や顔を覚えないのは、もの覚えが悪いからではなく、覚えようとしないからだと思います。
その証拠に、名刺交換などをした時に、もらった名刺をしげしげと見て、相手の肩書きや役職を確認した上で、名刺を交換した日付までもその名刺に書きこむ人がいますが、私なんかもらった名刺をろくに見もしないで名刺入れにしまってしまいます。

 
 そして名刺を名刺入にしまった瞬間に、もう相手の名前を忘れているのです。





                                                     平成16年2月10日
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