145.「生活騒音ノイローゼ」
 今はそういうことはないいんでしょうが、私が中高生当時は、放映されている映画の中の会話や音楽が宣伝のために、ある程度音量を絞っているとは言え、相当大きな音で外部へ放出されていました。


 私の勉強部屋は2階の、それも映画館と向かい合った位置にあったので、放映されている映画の会話がすべて筒抜けに聞こえてきます

 
 お陰で、わざわざ映画館にに行かなくても映画の内容はすべて把握できたし、BGMもすっかり覚えて、当時の私は相当の映画通でした。

 
「そんなに映画の音がうるさいんじゃ、勉強なんかできなかったろう、成績も悪かったんだろう?」と、余計な心配をする人もいらっしゃるでしょうが、余計なお世話です。


 慣れというのは恐ろしいもので、たまの映画の休館日には、静か過ぎて集中できず、勉強が手につかなかったぐらいです。
幼児の時から映画館の騒音を子守唄代わりに育った私には、映画館から漏れ聞こえてくる会話や音楽は、適度なBGMであったことは間違いありません。

 
 そういう訳で私は生活騒音というものに対してはすっかり免疫ができていて、気にもなりませんでした。
でも、工場騒音や交通騒音は困りますが。

 
 世の中には、いわゆる生活騒音に過剰に反応する人が意外に多いようです。

 
 私が初めてそういう人の存在に気付いたのは、結婚して東京郊外のニュータウンの賃貸団地に移り住んだ時です。
私の住まいの階上の奥さんが、音に対して異常に敏感で、天気のいい日に妻が布団でもはたこうものなら、直ぐに「うるさい」と苦情を言いに来るんです。


 しかし布団を使っている以上は、干したりはたいたりしない訳にはいかず、階上の奥さんの留守の間をねらってこそこそはたいていたのですが、そのうちに別のことでもいちいち文句を言われることが多くなり、何とも気詰まりな数年をその団地で過ごしました。

 
 団地住まいは、いわば共同生活のようなものですから、お互いに多少の不都合は我慢しあって、内心はどうであれ、表向きは上手に取り繕って、ニコニコと笑顔でお付き合いするのがいいと思うんですが、音に過敏な人には、隣人に対するそういう配慮がやや欠けていて、自分の感情をやたらにぶっつけてくるという共通点があるようです。

 
 その団地も手狭になって引越しを考えていた頃、同じニュータウン内の分譲団地の抽選に当り引っ越すことになりました。
 賃貸と違って分譲ともなりますと、総会を開いて「入居者による管理組合」を結成し、役員を選定したり、あらかじめ叩き台として公団が用意した「組合規定」の修正や承認などの作業が必要になってきます。

 
 私も団地内の小学校の講堂で開かれた管理組合の総会に妻共々出席したんですが、驚いたことにこの総会での議題の最大案件のひとつは、"騒音問題"だったのです。

 
 100人ほども出席者がいると、必ずその中には数パーセントの生活騒音に過敏な人がいるんだなと、その時初めて悟ったんですが、その数パーセントの人たちがいつの間にか集会の主導権を握って、これから起こるであろう生活騒音を想定して、その対策についてくどくどと言及します。

 
 彼らは住んで間もないのに既に騒音に悩まされていたようでした。

 
 私も前の団地でのノイローゼ奥さんにすっかり懲りていたので、今度こそは平穏な生活をと期待していたのですが、彼らは階上の騒音、幼児の走り回る音、泣き声、車のエンジン音、入浴時間など、この騒音社会でよくも生きていけるなと思うほどに騒音にこだわります。
 午後1時に始まった総会は、延々と夕方まで続きました。

 
 私にも3歳と4歳の活発すぎるほどの子供がいましたから、しかも2階なので、今後階下の住人にどれだけ迷惑をかけるか不安になり、すっかり興ざめした気持ちで総会の成り行きを見守っていました。

 
 私は、「そんなに騒音が気になるんなら、こんな街中に住まないで、"高尾山"(近くの山です)の山の上にでも住みゃーいいだろう」と、口に出す勇気はないので心の中でおもっていましたら、世の中には命知らずの人がいらっしゃるものです。

 
「そんなに静かな所がいいんなら、山奥へでも引っ越せ!」と野次を飛ばす人がいて、又それに同調して「狐か狸を相手にしてろ!」と怒鳴る人まで出てきて、総会は突然大荒れの波乱含みとなってきました。

 
 その団地には5年程いましたが、ここでも私はイヤな想い出をひとつ残すことになりました。
やはり階上の人が音に敏感な人だったらしく、私が残業で疲れて帰ってきて、夜遅くに風呂に入ったんですが、ある日上の奥さんが妻を訪ねてきて、「寝入りばなにお風呂に入られると目が覚めて眠れなくなるので、入浴時間をずらしてもらえないか」と言ってきました。

 
 そのことがあってから私は、夜遅くにお風呂に入る時には極力音を出さないように、水も余り流さないようにと細心の注意を払うようになりましたが、「自分の家の風呂に入るのに、何でこんなにビクビクしなきゃならないんだ!」と忸怩たる思いでいっぱいでした。

 
 現在私は一戸建てに住んでおり、周りから音のことで文句を言われることはなくなりましたが、その代償として住宅ローンに追いまくられる毎日です。

 
 私の家の南側に、庭を隔てて学生専用のアパートが建っていますが、ここの学生達の話し声のうるさいこと。

 
 今朝と言うべきか夕べと言うべきか、夜中の1時頃に30分間も、外で大声で立ち話をしていた男子学生が2人いたんですが、「うるさい!バカヤロー!」




                                                      平成16年1月20日


 


                                         










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