私が、ヘルニアでないのに手術されたんでは? といくら誤診を疑ったところで、確証のないことだし、既に手術は行なわれてしまったんですから、その日からおよそ10日間(医師からそう言われていた)の入院生活が始まりました。

 
 その10日間に私は、「私の人生でこれ程恥ずかしい思いをしたことはない」と断言しても過言ではない体験をしました。

 
 私が入院していた大学病院では、週に2度の、お偉い先生による回診がありました。
1度は教授、もう1度は多分教授に準ずる地位の医師による、いわゆる教授回診です。

 
 教授回診は映画やテレビドラマで見るシーンと全く同じで、偉そうな顔をした1人の教授が、若い研修医、婦長、看護師など総勢10名程度を従えて各病室の一人一人の患者の容態を診てまわり、時にはカルテやレントゲン写真を見ながら、担当の若い医師に治療上の指示を下すもので、患者1人には約1〜2分程度の時間をかけるでしょうか。

 
 教授が病室にやって来る15分程前に、数名の看護婦が慌ただしく入って来て、各患者の枕元に、大きい茶封筒に入ったそれぞれの患者のカルテやレントゲン写真を配置します。

 
 それから5分程前になると各患者のパジャマの、前の部分をはだけて患部を露出させ、教授が直ぐに診れるように、そのままの姿で待機させるのです。

 
 私の場合の患部は、場所が場所(玉袋)なだけに、どうしてもそのものズバリをもろに露出させることになり、「それだけは勘弁してよ」と若い看護師に哀願したんですが、冷たくあしらわれ、看護師の手でむりやりにパジャマの前をはだけられ、パンツもずり下ろされて、私の分身である粗末なものが白日の元に曝されるという屈辱を味わうことになってしまいました。
 
 
 自分の分身が立派なものであれば、少しは堂々と振舞えたんでしょうが、日頃から劣等感にさいなまれている粗末極まるシロモノですから、穴があったら入りたいぐらいの惨めな気持ちで、観念してベッドに横たわっていました。

 
 私は手術前に若い女性の看護師から、2人がかりで、恥ずかしい部分の毛を剃りとられていた(これも相当に恥ずかしかった)ので、私の分身は、まるで羽毛をむしられた雛鳥のように、文字通りの尾羽打ち枯らした情けない姿でうなだれています。
 

 そういう恥ずかしい格好で、教授ご一行のご来室を待つわけです。
そうこうするうちに廊下のほうが急に騒がしくなり、ご一行が入室して来ました。

 
 他の患者さんは、胸だとか、お腹だとか、見られても恥ずかしくない部分を露出しているんですが、私の場合は、体の他の部分はすべてパジャマでで覆い隠しながらも、自分のいじけた分身だけは露出させるという本末転倒の姿でベッドに横たわっているわけですから、まるで1点が華やかなスポットライトを浴びているようなもので、当然ご一行全員の目は、私のその部分に集中するはずで、若い看護師さん達も一応見ないフリをしながらも、しっかりと私の一部分を見ているに違いないと思うと、恥ずかしくて泣きたい気持ちでした。


 私は目を閉じていたんですが、やはり気になって薄目を開けたら、気のせいか、笑いをこらえているような婦長と目が合ってしまいました。

 
 こういう恥ずかしい場面では、なまじその恥ずかしい部分を手で覆って隠したりすると、かえってみんなの注目を浴びることになるので、それだったら一層のこと、パジャマなんかも取り払って、全身素っ裸で横たわっていた方がみんなの集中が一点から分散されて、よっぽどましだと思いました。

 
 こういう恥曝しな回診を3度も経験して、私は無事に退院することができました。
10分足らずの冗談みたいな手術でしたが、手術の跡は、玉袋の直ぐ横に、雑草に埋もれて今でもくっきりと残っています。

 
 数年後私は、今度は急性肝炎にかかり、又もや2ヶ月も入院することになってしまいました。
そして同室で仲良くなった患者さんに、その筋の、結構偉そうな人がいました。
機会があったら、「その時の面白い体験談も書いてみようかな」と思います。
 
 
 でもその筋の人は、意外と憎めない人でしたね。


                                             
                                                      平成15年8月28
128.「入院中の恥晒しな体験・2」
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